LEMSの症例

LEMSの臨床を理解するために、架空の症例を提示します。本症候群に特徴的な症状や検査結果を赤下線で、小細胞肺癌に関連する所見を網掛け文字で示します。

  • (本村政勝, 他: モダンメディア 2023; 69: 11-17より引用・抜粋)

患者:63歳、男性
主訴複視、四肢筋力低下、歩行障害
既往歴:特記事項なし
家族歴:特記事項なし
生活歴:会社員、喫煙1日に40本40年間
現病歴:X年1月頃より階段を登ることが困難になり、複視も自覚。その後、平地でも歩きづらさを感じるようになり、シャンプーする際に両手を挙上しにくくなった。さらに、口喝や頻尿を自覚。そのため、X年6月初旬、神経内科を受診。

一般身体所見:身長169.7cm、体重68.2kg(半年で5kgの減少)、血圧160/91mmHg、脈拍80回/分・整、体温36.8℃、SpO2 98%(room air)、心肺、腹部に異常なし。

神経学的所見:意識清明、瞳孔は3/3mmで正円同大、眼振や視力障害はなかった。数秒間の上方視で複視と眼瞼下垂が出現した。四肢の腱反射は低下、病的反射は認めなかった。徒手筋力テストは、下肢近位筋優位の筋力低下があり、Gowers徴候陽性であった握力は、直後ではなく数秒後に最大筋力(右17.5kg、左14kg)となった。触覚と位置覚・振動覚は正常であった。歩行は平地では可能だったが、階段昇降は手すりが必要であった。日常生活動作は、外出時には介助が必要だが、自宅内での歩行は自分で可能で、日本語版modified Rankin Scale(mRS)3に相当した。自律神経症状は口喝と頻尿を認め、便秘や発汗異常はなかった。

入院時検査所見:血算・一般生化学検査は異常を認めなかった。

入院時検査所見:血算・一般生化学検査は異常なし。甲状腺機能は正常、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体、抗AChR抗体、抗MuSK抗体は陰性。P/Q型VGCC抗体は248.7pmol/L(正常上限値:20.0pmol/L)であった。ProGRP(肺がんマーカーのガストリン放出ペプチド前駆体)は1730pg/mlと異常高値であった。末梢神経伝導速度検査では、正中神経の複合筋活動電位(compound muscle action potential:CMAP)が2.50mVと低値で、強収縮後に7.25 mVと正常化した。低頻度反復刺激試験では37.5%の漸減を認めた(図11)。針筋電図では軽度干渉が不良であったが、疲労により強収縮が不十分であると考えられた。シェロング試験では起立性血圧低下は認めなかった。胸部CTでは右下葉に約33mmの辺縁不整な腫瘤を認め、右肺門部や気管分岐下リンパ節が腫大していた。大葉間裂の引き込みや胸水も見られた(図22)


以上、電気生理検査とカルシウムチャネル自己抗体陽性により、LEMSと診断され、癌検索のために呼吸器内科に入院しました。入院後の経過は、気管支鏡検査で、病理組織はclass Ⅴの小細胞癌でした。PET-CTでは転移を示唆するような異常集積を認めませんでした。以上より、小細胞肺癌(cT2aN2M0;StageⅢA)と診断し、癌化学療法と放射線療法を施行しました。
治療に伴い、筋力は改善し、独歩も安定しました。X年12月診察時には眼瞼下垂や複視は消失し、外出も自分一人ででき、日常生活動作は著明に改善しました(mRS1に相当)。P/Q型VGCC抗体は1.0以下pmol/Lと陰転化しました。反復刺激試験では正中神経のCMAPは7.06 mVと改善し、低頻度刺激では漸減現象を認めたものの、高頻度刺激での漸増現象は見られませんでした。X+2年1月現在も歩行は自立しており、入退院を繰り返しながら、呼吸器内科で定期的に化学療法を繰り返しています。
本症例は小細胞肺癌合併LEMS例で、LEMSの診断後に小細胞肺癌が発見され、その治療によりLEMS症状が著明に改善しました。まさしく、傍腫瘍性神経症候群の典型例とも言えます。本症例が示すように、LEMSを見逃がさないためには病歴が重要であり、複視と四肢の脱力を伴う筋力低下は神経筋接合部が責任病巣であること、さらに自律神経系も障害されていることが、LEMSという症候群を強く示唆します。


  • 1)吉村俊祐, 他: 免疫性神経疾患-病態と治療のすべて 2016; 370-377
  • 2)北之園寛子, 他: BRAIN and NERVE 2019; 71; 167-174

図1 LEMSの診断に必須である電気生理検査

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図1Aでは、短母指外転筋のCMAP振幅2.50mV低下し、強収縮後にCAMP振幅7.25mVと上昇した。図1Bでは、5Hz反復刺激で37.5%の漸減現象が認められた。図1Cは、50Hz高頻度反復刺激の漸増現象を示す。10発の刺激でCMAP振幅が約3倍、190%漸増現象が認められた。

  • 吉村俊祐, 他: 免疫性神経疾患-病態と治療のすべて 2016; 370-377より引用

図2 胸部CT、治療前

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  • 北之園寛子, 他: BRAIN and NERVE 2019; 71; 167-174より引用